コラム2019.01.28
中国人観光客にも影響?中国の進める「シャープパワー」戦略とは
「シャープパワー」という言葉をご存知ですか?
今、中国政府が推し進める戦略の一つです。中国人観光客の動向には、政府の意向が大きく反映されますから、インバウンドビジネスを行う上で中国の外交方針を理解しておくことはとても重要です。
「シャープパワー」とは?
外交には大きく分けて3つの力があると言われています。「ソフトパワー」、「ハードパワー」、そして「シャープパワー」です。
「ソフトパワー」とは主にアメリカが得意としてきた、文化の提供です。日本でも戦後、馴染みのなかったマクドナルドやハリウッド映画、アメリカの洋楽などを通じて多くの欧米文化が流れ込んできました。
それに加え民主主義、自由主義がいいものだというアメリカの価値観を多くの国と共有することで、アメリカへのあこがれや親近感を多くの国が抱くようになります。それが外交の手助けとなる、というのがソフトパワーの考え方です。
「ハードパワー」というのは言葉の響きの通り、まさに強い力、軍事力や技術力などの力で相手を従わせる外交戦術です。
これは古来より多く用いられてきた外交手段で、古今東西多くの例が見られます。
では第三の力、「シャープパワー」とは何なのでしょうか。
これは近年アメリカで呼ばれ始めた言葉で、ソフトでもハードでもない、シャープな(鋭い)力と言われています。
民主主義の国では、多数決で政治が決定されますが、中国系の人というのは世界中に多くいますので、ある程度の票数というものがあります。こうした民主主義のシステムに則って他の国の政治をコントロールしようとする力が、シャープパワーです。
最近では中国政府系の機関がアメリカの新聞にトランプ政権を批判するような記事を出したことを、トランプ氏が厳しく非難してニュースになりました。
これはもちろん武器を用いたわけでもなく、全く合法な手段です。そうした合法な手段でも、直接的に相手をコントロールしようとする力を、シャープパワーと呼んでいるのです。
観光客にはどのような影響が?
ここまでで、「それが中国人観光客にどう関係あるんだ?」と思われた方もいるかもしれません。
実は、中国の政府からすると中国人観光客もシャープパワーの大きな「武器」のひとつなのです。
中国人観光客はその希望にかかわらず、中国政府が許可をしない旅行先に行くことはとても難しいです。
日本においても尖閣諸島国有化問題の際には中国政府が渡航制限をおこない観光客が激減しました。
中国人観光客による「爆買い」はその地域に大きな経済的メリットを与えます。多くの国のインバウンドは、中国人観光客に支えられていると言っても過言ではないかもしれません。
しかしながらこうした利点があるからこそ、政府が外交カードとして用いることがあるのです。
例として、島国・パラオはそれまで中国人観光客で賑わっていました。観光客を目当てにした投資も活発で、経済を支えていたのです。
しかしパラオが台湾と国交を結んでいることを理由に政府が渡航制限令を出し、観光客が激減しパラオの経済は大きな打撃を受けました。
このように、観光客は圧力の外交カードとして用いられる場合があるのです。
最後に
忘れてはならないのは、日本を訪れる中国人観光客のほとんどはこのような外交戦略を考えているわけではなく、純粋に日本を理解し日本を楽しもうと訪れているということです。
ですから最もいけないことは、中国に恐怖心を持ち排斥しようとすることです。民主主義国家ほどではなくとも、中国において世論は大きな意味を持ちます。
日本に来た観光客の方に満足してもらい、また来たいと思って頂けば必ず、その声は力になります。
それでも、外交的な問題で観光客が一時的に激減することがあるかもしれません。
その備えとして、あまり一点に偏らず多角的な目線を持つことはとても重要だと言えるでしょう。