コラム2018.10.22
インバウンドで注目の「農泊 (Farm Stay)」は、地方活性化の起爆剤になるのか?
地方にもインバウンド需要が広がっている中で、最近注目されているのが「農泊」です。大都会とはまるで違った日本の魅力を味わえるということで、人気が高まっています。地方創生のカギと言われる農泊とは?今後の見通しを探ってみました。
日本政府も後押しする農泊 (Farm Stay)とは?
農泊とは、簡単に言うと「農村地域に泊まること」です。具体的には、農村、山村、漁村などにある民宿に宿泊することで、その仕事の一部を体験したり、田舎ならではの生活に触れたりすることができます。
農泊は、2020年のインバウンド数4000万人の目標達成に向けて、また地方活性化の起爆剤として、農林水産省が推し進めている施策のひとつでもあります。
「観光ビジョン実現プログラム2018」には、「農泊に取り組む体制の構築等により、持続可能なビジネスとして「農泊」に取り組む地域を2020年までに500地域創出する」とあります。2016年に発表された目標値は、50地域でした。わずか2年で10倍に上方修正されたことからも、インバウンド対策として期待の高さが伺えます。
農泊の具体的なメリットとは?
では、農泊が普及すると具体的にどういったメリットがあるのでしょうか。
まず、インバウンド市場で高まる「コト消費」に応えることができます。これまでのようにインバウンドがゴールデンルートに集中しているばかりでは、今後ますます強まるであろう「コト消費」への変化に対応しきれないと予想されます。2020年の4000万人、2030年の6000万人の受け皿となるべく、地方にはインバウンド需要を取り込む工夫が求められているのです。
農泊によって訪日外国人観光客が地方に出向けば、インバウンド消費を日本の隅々まで分散させることができます。そうすれば、少子高齢化が急速に進む日本の農村部にも活気が戻るでしょう。例えば、廃校になった小学校や空き家を民宿として利用することもできます。インバウンド需要が増えれば、新しい雇用も生まれるでしょう。仕事があれば、若者のIターンや移住といった選択肢も増えるはずです。
中国人観光客と農泊
では、インバウンドでも圧倒的多数を占める、中国人観光客にも農泊は受け入れられるのでしょうか。日本政府観光局(JNTO)が2016年にとりまとめた「訪日外国人旅行者の消費動向とニーズについて」から、中国人観光客のコト消費に関する記載をいくつかみてみましょう(以下、本文より抜粋)。
・中国人、タイ人、インドネシア人も、市場により内容は異なるが、自国にはない自然景観の鑑賞、旅館での宿泊体験、温泉入浴体験等を好んで体験している
・旅館宿泊・温泉入浴は中国人の家族層に人気が高い、地元の人との交流は特に米国人・フランス人が求める等の違いがある
・中国人は自国の混雑と異なる静かな自然、タイ人はSNS への掲載に向いた写真を撮影できるような自然景観を求める等の差が見られる
・国籍によっては好まれない項目もある。例えば中国人は美術館・博物館等の体験率が低い
・教育旅行に参加した中国人の子供の多くがコウノトリについて学び、お土産屋でコウノトリグッズを購入する(豊岡市)
・ 栃木県のブドウ狩りツアーが中国人に人気。収穫体験を通し品質の良さを知った中国人がスーパーでも多く購入する。
国籍によってコト消費の好みが異なるため、全方位的に訪日外国人観光客をターゲットにしてもうまくいきません。中国人観光客に農泊を体験してもらうのであれば、充実した宿泊施設と食べ物をからめた体験プログラムがいいのかもしれません。
まとめ
今後、農泊がインバウンド消費の目玉になるには、地域の強みがどの国の観光客に合っているかを見極める必要があります。その地方ならではの農泊が定着すれば、インバウンドの増加と地方活性化を実現できるのではないでしょうか。